借金返済と貧困
うちは貧乏だから、贅沢言ったらいかんよ。
昔から母はそう言っていた。それはもちろん、僕にだってわかっている。僕と妹の幸子を残して先立った父が残したのは、事業の失敗による多額の借金返済という遺産だった。
母は、僕と幸子を育てるのと、あとは借金返済のために一生懸命働いた。とはいっても、四十を過ぎた母ができる仕事では、なかなか借金返済は完了しない。利息はさらに増え、さらなる借金返済が僕と幸子の将来にかかってくる。
家の手伝いとかをしているとなかなか勉強ができず、それでいい高校にも入れない。借金返済をしながら大学まで行くのは無理なので、結局高卒で働くことになる。高卒では給料があまりよくないし、昇進も期待できなくて、とにかくがむしゃらに働かないと、借金返済にまでお金がまわらない。借金返済というのは、父の残した文字どおりの、たいした負の遺産である。
高校を中退した幸子は、水商売を始めた。もちろん僕も母もそんなことは望まなかったが、実際幸子の稼いでくるお金が借金返済にかなり役に立った。それで文句はいえない。中退の理由も、貧しさのためにバイトして借金返済を手伝い、そのために勉強があまりできず成績が悪かったのと、友達から白い目で見られたのが原因だ。
借金返済さえなければね。お前にも幸子にも、もうちょっと幸せな暮らしをさせてやれたのに。
そんなことを母がこぼすのもいつものことだった。
借金返済のためには、今のままではいけない。このまま地道に働いていたんじゃ、いつまでたっても僕たちは普通の暮らしができない。そんなふうに思って、僕は道を踏み外してしまったのかもしれない。借金返済のために。